科学映画の制作

一柳慧音楽と短編映画

< プロフィール >
一柳慧(いちやなぎ・とし)

1933年2月4日、神戸に生まれる。作曲家、ピアニスト。作曲を平尾貴四男、池内友次郎、ジョン・ケージに、ピアノを原智恵氏に師事。

1954年から57年までニューヨークのジュリアード音楽院に学ぶ。その間にエリザベス・クーリッジ賞などを受賞。数々の現代音楽の作曲、演奏に4度目の尾高賞の受賞を始め、1999年には紫綬褒章。2002年、第33回サントリー音楽賞。2005年4月、旭日小綬章などを受章される。

現在「TIME-東京インターナショナル・ミュージック・アンサンブル−新しい伝統」の芸術監督、現代音楽祭インターリンク・フェスティヴァル芸術監督、国立劇場専門委員、日本音楽コンクールの委員、神奈川芸術文化財団芸術総監督などをつとめ、現代音楽の普及にも携わっておられる。

一柳氏は小林米作氏制作の科学映画の音楽も担当され、映像と音楽の総合芸術化にも貢献された。今回、一柳氏から小林作品の科学映画の音楽についてメッセージをいただいたのでご紹介する。

このDVDに収められている映像は、1960年代前半に作られたものである。それは私が7年間のニューヨーク滞在から東京へ帰国した直後の数年間にあたる。当時の私は、主に図形楽譜による実験的音楽を書いていたのだが、その私に小林米作氏は、自分の映画の音楽を担当するよう声を掛けてくださった。

小林氏の映像はそれ自体自立した作品として、時代の先端を映し出す思想に貫かれていた。特に当時としては初めての試みともいえる顕微鏡の特殊撮影による、ミクロの世界の徹底した考察に基づく撮影は圧巻である。私はその映像づくりのひたむきで真摯な姿勢に感動し、音楽の面で何とかそれに応えたいと思ってのぞんだことが、今まざまざと思い出される。

私にできることは、映像の内容に拮抗する音の世界を創ることであり、その点でこれら映像の中では、音楽も先端的手法を使っている。いろいろな楽器の特殊奏法、たとえばピアノなら内部奏法や、プリペアード・ピアノや、打楽器的扱いからピアノの音を電子的に変調したものなどを使っているが、それらは映像から触発された結果だったと言ってよいだろう。

映像の伴奏音楽なら、もう少し柔らかい質感の音楽を、今なら考えるかもしれないが、純粋な音楽作品を創るのと同じ態度で取り組んでいるところが、いかにも1960年代の文化や芸術が高揚しつつあった時期と呼応している感じが反映されている。

これらの映像が東京シネマによって保存され、40数年ぶりにDVDとして復刻されることで、貴重な資料として多くの人に観賞される機会が提供されることを素直に喜びたい。

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