1000作品公開に当たって -1-

NPO法人科学映像館を支える会 理事長 久米川正好

理事長 久米川 正好

NPO法人科学映像館を支える会
理事長
久米川 正好

 

2002年に大学を定年退職した私は、在職中『科学映画の父』と呼ばれた小林米作氏と製作した「骨の科学映画」を後世に遺したい、多くの方に活かして欲しいとの願いを持つに至りました。その願いをかたちにすべく2004年(YouTubeが誕生した年)から準備を始め、2007年の6月には『NPO法人科学映像館を支える会』を設立し、科学映画の旗手ともいえる岡田桑三・小林米作両氏の代表作である『生命誕生』をHD化して配信を行ったのが2007年5月1日のことでした。これは大きな反響を呼びました。この作品の生物試料を担当され、唯一ご健在で現役の淺香時夫氏から「先生!制作当時の映像が蘇りました」と興奮一杯の電話をいただきました。この仕事を始めたことは間違いなかった、そして今後に自信を持つことができた瞬間でした。

以来、必ず少なくとも1作品を毎週木曜日に無料でウェブ配信する活動を継続し、12年を掛けて本日6月7日に通算1,000作品を皆様にお届けできることとなりました。当初は生命科学映画を中心に「50作品」を目標としてスタートしたのですが、1作品、1作品と弛まずに積み重ねて本日1,000作品を公開できたことは私にとっても感無量の思いです。そして80歳を過ぎた現在でも、映像の仕事に関わりを持てることに私は運命的なものを感じています。

2007年4月に産声を上げた『科学映像館』の全作品は、YouTubeの再生回数(延べ900万回)を含めると1,400万回にもなり、現在に至るまで本当に多くの方にご覧いただいています。その間には国立国会図書館やiTunes Uからも活動が評価され、最新技術との新しいコラボレーションも生まれました。その他テレビ番組をはじめ教育現場、学会、映画祭、博物館などにおける企画展等でも映像が二次使用されています。テレビ番組制作者にとっては『科学映像館』は生きた映像カタログであり、今週もNHKをはじめ民放各社から複数回問い合わせをいただきました。なかでも、2011年3月に発生した東日本大震災により起きた福島第一原子力発電所の事故報道では、『福島の原子力』など関連作品がNHKやBBCなど国内外の30を超えるテレビの報道番組で活用され、社会的評価も一段と高まりました。

しかしながら、単一NPO法人の活動では予算面や情報収集などにおいて貴重な作品の発掘・収集やデジタル化、フィルムの保管などにどうしても限度があります。今後、然るべき行政機関により組織的かつ効果的に保管、共有化される機構が確立され、貴重な映像が未来遺産として後世に送り届けられる日が来ることを見届けたいと願っています。

1,000作品という大きな節目を迎えることができたこの機会に、改めてこれまで当法人の活動を支えてくれた方々にお礼を申し上げたいと思います。まず東京シネマ新社代表岡田一男氏をはじめ、多くの貴重な映像作品を提供してくださった著作権保有者各氏に対して。また、それらの映像遺産を未来に遺す為、株式会社東京光音の皆さんが高度な技術と情熱を惜しみなく注いでデジタル復元に協力してくれたこと。なかでも東京光音前所長の松本正氏は制作者やテレビ関係者との話し合いの場にも時間の許す限り立ち会ってくださり、その都度貴重なご助言をいただきました。さらに同郷の見野健司氏が率いる株式会社メディアイメージ(旧みの電子産業)には、復元された作品のサーバ格納をはじめ、新しいシステムを積極的に取り入れたウェブ配信に積極的に協力してくださいました。開設当初の混乱期、前述の岡田氏、松本氏と見野氏が果たしてくれた役割は大変大きいものでした。

このほか、大学時代まったく不慣れであったパソコン操作をはじめとする事務処理などについては、多くの方のご協力なしでは到底なし得ませんでした。パソコン設定や管理、精度の高い作品メタデータ作成、国立国会図書館納品作業、助成金応募・報告資料作成や会計処理等々、本当に多くの方のご支援があり成し遂げることができました。そして当法人の活動を理解していただいた多くの方々と企業の協賛、および「TFMAプロジェクト(撤去した貴金属の寄付)」についても歯科医療関係者らが大変熱心に支えてくださいました。

理事長 久米川正好


『科学映像館』は、はじまりは私の突飛な考えに過ぎませんでした。しかし12年活動を継続することができ、本日1,000作品を配信することができたことは、ひとえに関係者、支援者の皆さまがあたたかく見守ってくださったからに他なりません。改めて、心から感謝する次第です。
本当にありがとうございます。

 

東京シネマ新社代表取締役 岡田一男

東京シネマ新社代表取締役 岡田一男

東京シネマ新社代表取締役
NPO法人科学映像館を支える会副理事長
岡田 一男

 

12年ほど前の2005年の夏、わが国の科学映画に不滅の功績を遺されたカメラマン、小林米作の100歳を祝う会が、湘南の茅ヶ崎であった。ここで、初めて久米川正好先生にお目にかかった。小林米作は、旧東京シネマで、12年間に大きな業績を残した後、自分の会社、ヨネ・プロダクションを興し、齢90で引退するまで、30年近く働いた。したがって2倍半の期間があるから、作品数は、米プロ時代の方がはるかに多いのだが、彼の代表作を出来ぐあいから挙げていくと、ほとんどは、東京シネマ時代のものとなる。しかしながら、これだけはという例外がある。それは、米プロ時代の1980年代初めに観察技術が確立された、骨組織の生成過程を生きたままの試料で記録した「The Bone」とそれに続く一連のシリーズである。「The Bone II」の製作情報が伝わってきたとき、実に羨ましく思ったことを、今でも思い出す。その観察手法を編み出されたのが久米川先生だったのだ。この2005年の出会いの中で、科学映画の過去の遺産を顕彰するには、何よりもそれらを容易に見られるようにすること、それには新たに始まろうとしているHDネガテレシネによるデジタル化とその成果のウェブ上での配信・公開ではないかというお話を久米川先生と語り合った。それから間もなく、秋に小林米作が他界し、顕彰の話は、より切実になり、紆余曲折はあったが、NPO法人科学映像館を支える会として実を結んだ。久米川先生の継続的な衰えを知らぬ情熱が無かったら、NPO法人科学映像館の1000タイトル配信は決してあり得なかった。

 

明海大学歯学部形態機能成育学講座口腔解剖学分野教授 羽毛田慈之

形態機能成育学講座口腔解剖学分野教授 羽毛田 慈之

明海大学歯学部
形態機能成育学講座口腔解剖学分野教授
NPO法人科学映像館を支える会事務長
羽毛田 慈之

 

科学映像館からの配信作品が1000作品となります。2007年に科学映像館が発足してから11年間の歩みです。当初は生命科学の作品が中心でしたが、この11年の間に工業・農業、更には社会学・民俗学といった幅広いジャンルまで広げることができました。このことにより、「福島の原子力」が示すように戦後の日本が歩んだ近代を歴史の中に埋もれさせるのではなく鮮明に蘇らせ、検証可能なものとなりました。「温故知新」なくして、正しい未来はありません。また、多くの作品の中には、撮影された時代より大きく進歩した現代においても、色褪せることなく今もって多くの謎を示しているものも数多く含まれております。

今まで科学映像館を支えていただいた多くの賛同者に心から感謝申し上げるとともに、これからも科学映像館の使命を全うすべく、多くのそして様々な分野の歴史の証人となる作品を発信して行きたいと思っております。乞うご期待ください。

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