科学映画との出会い

科学映像の「いのち」の輝き”生命誕生”

< プロフィール >
矢嶋俊彦(やじま・としひこ)

1942年、長野県生まれ。1944年、新潟大学大学院
修了。現在、北海道医療大学歯学部教授(口腔解剖学)。博士(歯学)。骨・歯などの硬組織を
電子顕微鏡などによる研究の第一人者。

北海道医療大学教授・矢嶋俊彦

北海道医療大学教授
矢嶋俊彦

"生命誕生"は「いのち」の輝きを余すところなく語っている映画で、良質の映像が与えてくれる世界は大きく、深いものです。
私の駄文を読まれるより、この映画をまず観られることをお勧めいたします。観られた方には、以下は不要です。

最近、簡単に人の「いのち」を奪ったり、自らの「いのち」を簡単に絶つ人が多いことに驚き、不安を感じています。それは、私たちが身近なところで素晴らしい「いのちの誕生」や、穏やかで安らかな「死」に直面していないことも大きな要因と思われます。

私は信州の田舎で戦後の物資のない時代に育ちました。農家ではなかったのですが鶏を飼い、産んだ卵を貴重な食材・栄養源としていました。時には雛をかえすこともありました。孵卵開始後、時々電球にすかして卵の中の状態をチェックしました。発生が進行すると胚の部分は赤みをおび、赤い塊(心臓)の拍動するおぼろげな像の記憶があります。

また、発生が進まない卵は無精卵であることも教わりました。白い鶏卵が21日すると、卵の中でピーピー鳴き声がし、ヒヨコが殻を破って飛び出しきます。この「いのち」の誕生は忘れられません。

それから月日がたち、大学3年時(1963年)に"生命誕生"を授業で観ました。生物学を学んでいましたが、私にとりましては記憶と知識を揺れ動かす大きな、大きな波動でした。

映画はまず、鶏卵の卵黄表面にある胚(盤)をはぎとり、器官培養するところから始まります。

胚の細胞が分裂を繰り返し、原条を形成され(ヘンゼン)結節が出現・移動します。30時間を過ぎると、神経管が形成され、その前方には脳(頭)の分化がみられます。神経細胞、筋細胞、上皮細胞、線維芽細胞などの細胞分化が進行します。さらに体節構造が明確なり、心臓が形成され、拍動し始めます。

60時間を過ぎると形成された血管網に血流が小川のように流れます。また、一時的に鰓弓が形成されます。90時間後には、眼の形成、脳の分化発達がミクロの世界で映し出されます。

これらの発生のマクロ的過程は誰でも記憶の片隅にはあります。
また、生卵を割ったとき、ほんの小さな胚から体が発生し、卵黄は栄養物であることが頭を過ぎることがあります。しかし、ここから「いのち」を意識する人は少ないのでないでしょうか。

この映画は、単細胞から細胞分裂を繰り返し、細胞が分化し、組織・器官が形成され、心臓が拍動し、血流が流れ、体ができてゆく「生命誕生」を、「最高の技術と映画的表現の天才的駆使により奇跡的完璧さをもって生物学の本質的現象を描き出している(パドヴァ大学科学教育映画大会審査委員会)」のです。

また「個体発生は系統発生を繰り返す」ことを眼のあたりにみせてくれます。この映画では直接示されていませんが「死」は「生」の対極・終極ではなく、その一部として存在していることも示唆されています。

この映像には、生命現象を視覚化する情熱があふれています。そして「いのち」の輝きに満ちています。いま"生命誕生"の画面に切り替えてください!!

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